今日は遊びの日。

毎日、「遊び」の気持ちを持って、暮らしたい。

古典を文庫で読むか、全集で読むか。

先日、「古典はまず角川ソフィア文庫を見てから、他のを確認」と書いたので、どんな形態の本で読むと読みやすいのか、手持ちの本を見ながら改めて考えてみた。趣味的感想です。(ここでいう「古典」は、中世以前の作品を指します)

 

1.文庫本

<全般>

全集と比べて小さく軽いので、持ち運びに便利。通勤電車で読んだり、旅行に持って行ったりするには、文庫本一択。安価なのも財布に優しい。

 

一方で、紙面が小さいため1頁に入る情報量が少ない。用語の注釈は、章末もしくは巻末にあるものが大半。原文と注釈のページを行き来しながら読む必要がある。

長編ものは本が厚くなるし、複数巻に分かれると合計額はそれなりの金額になる場合も多い。

 

(1)岩波文庫

「古典」と言えば、一番に浮かぶのは、やはり岩波文庫。品揃えが多いので、たいていの本が手に入る(品切れや絶版も多い)。

 

他の文庫より刊行年が古いものが多く、解説などの文体がやや読みにくい。また、「現代語全訳」がついているものが少ない。

 

○手元にある『日本書紀』(全5巻)の構成は、

  • 右頁にふりがな付の書き下し文、左頁に注釈が記載。見開きで読めるようになっている。
  • 本の最後に、まとめて原文全文。
  • 現代語訳は無い。

 

現代語訳が無いので、古典を読み慣れない人にはやや荷が重い。古文を読み慣れた人、基礎知識がある人、注釈をあまり見ないに向いていると思う。

 

(2)講談社学術文庫

岩波文庫と比べて刊行年が新しいものが多く、解説や注釈が読みやすい。注釈が丁寧で、理解しやすい。

 

原文と現代語訳の両方が掲載されている「全訳注」と、原文は無く現代語訳のみの「全現代語訳」の2パターンがある。

 

○手元にある『西行物語 全訳注』の構成は、

  • 章ごとに「原文→現代語訳→語釈→鑑賞」の順に記載。
  • 原文に、注釈有無を示す印がついていないので、原文のどこに注釈がついているのかはページをめくって「語釈」の箇所を見ないと分からない。章が短く設定されているので、順に読んでも理解できるが、古文を読み慣れていない人は、先に語釈を読んでから原文を読む方が理解しやすいと思う。

「鑑賞」として、読む時のポイントが書いてあるので、背景などが分かり初心者でも内容を理解しやすい。

 

○もう1冊、『大鏡 全現代語訳』は、

  • 章ごとに、「現代語訳→史実」の順に記載。

という構成。全文を読みたいが原文までは不要、という場合は、「全現代語訳」一択。

 

(3)角川ソフィア文庫

本にもよるけれど、おそらく角川ソフィア文庫が一番刊行年が新しいと思う。

 

○手元にある『徒然草』の構成は、

  • 頁が2段構成。頁の上3分の2に原文、下3分の1に注釈を記載。読みやすいが、注釈のスペースが限られているため、講談社学術文庫に比べると注釈はシンプル。
  • 説明のための図や絵を数点掲載。
  • 本の最後に、まとめて現代語訳全文。現代語訳だけまとめて読みたい時に、便利。

 

 

角川ソフィア文庫には、より初心者向けの「ビギナーズクラシック」シリーズがある。特徴は、

  •  基本的に、「全文」ではなく、「抄」。全文の時は、タイトルに(全)と付く。
  • 古典の「有名どころ」はちゃんと掲載されている。
  • 図・表・写真・コラムなどが挿入されており、理解の助けになる。

 

○手元にある『枕草子』の構成は、

  • 全部で約300段のところを、78段のみ。一部中身を割愛している段もある。
  • 「現代語訳→原文→説明・図」の順に記載。
  • 装束図や内裏図、清涼殿の平面図、几帳や牛車の図など、図が多く理解しやすい。
  • 巻末に、「枕草子の楽しみ方」として、次のステップに向けた参考図書などの記載がある。

現代語訳から始まることや図が多いことは、古文を読み始める際に手に取りやすいポイント。

 

2.全集

<全般>

文庫本とは逆で、大きくて重い。持ち運びには不適。家の中で読むのに向いている。

文庫本と比較して高価だが、長編ものの場合は文庫本より冊数が少ないため、全集の方が安価になる場合もある。

紙面が大きいので、1頁に原文・訳文・注釈が掲載でき、読みやすい。

 

(1)日本古典文学大系岩波書店

旧版(最終巻の発行が1967年、以下同様に記載)と新版(2005年)があり、手元には旧版『今昔物語集』(全5巻)がある。

  • A5サイズ
  • 頁が2段構成。上3分の1に注釈、下3分の2にフリガナ付の原文を記載。
  • 岩波文庫と同様に、現代語訳は無い。
  • フリガナがカタカナなので、読みにくい。

岩波文庫と同様、現代語訳が無いので、古典を読み慣れた人向き。

 

(2)新編日本古典全集小学館

旧版(1976年)と新編(2002年)があり、手元には新編『伊勢物語』などがある。

  • B5サイズ弱
  • 頁が3段構成。上4分の1に注釈、中4分の2に原文、下4分の1に現代語訳。1頁に3点セットが揃うので、とても読みやすい。中の原文も行間にゆとりがあって、見やすい。

初心者にも読みやすいが、新編でも、売り切れの巻など入手しにくい巻がある。

 

(3)新装版 新潮日本古典集成(新潮社)

旧版(1989年)と新装版(2020年)があり、手元には旧版『古今和歌集』、新装版『枕草子』などがある。新旧版とも、

  • A5サイズ弱
  • 頁が2段構成。上3分の1に注釈、下3分の2に本文。

新旧版の違いというより本の違いかもしれないが、現代語訳については、

  • 旧版『古今和歌集』は、注釈の間に現代語訳を朱書き。
  • 新装版『枕草子』は、現代語訳全文は無い。本文の分かりにくい部分にだけ、横に現代語訳を朱書き。部分訳とはいえ、ほぼ朱書きがついている頁もあり、十分読みやすい。

現代語訳全文がどうしても必要、というのでなければ、この全集が読みやすい。刊行年が新しい方が注釈や解説に新しい学説が取り入れられるし、入手もしやすい。また、全集の中では小さく扱いやすい(新装版は函も無い)。

 

3.まとめ

学術的な視点で古典を読む場合は、底本や校注者も選択肢の一つになるが、趣味として楽しむのであれば、結局は次の要素のどれを優先するか、ということ。

  • 原文の有無
  • 現代語訳の有無
  • 注釈の場所
  • 本の大きさ・重さ・厚みなど、外形要素
  • 本のジャンル・内容・自分の興味の深度など、実質要素

現代語訳が不要で原文をシンプルに手軽に楽しむなら岩波文庫、基礎知識なしでこれから古典を読み始めようというなら角川ソフィア文庫のビギナーズクラシックシリーズ、という感じか。

 

異なる校正者による本を比べ読みするのも面白そう。

 

私の場合、最近大和絵を観に行くことが増えたため、題材となる物語や和歌は原文で読みたい。このため、原文付を読む。一方で、権記、小右記御堂関白記などの日記類は、現代語訳さえ読めればいい、という分け方もできる。

 

4.その他

(1)古典文学全集(児童向け、ポプラ社

子どもの頃に家にあり、何度も繰り返し読んだ。全26巻。

この全集で主な古典作品を知ったのはとても良かったと思う。ただ、繰り返し読んで好みも分かってしまったがゆえに、大人になってから新潮社などの大人向け全集に手を出さなかったのは、今から考えると残念な点。

 

(2)電子書籍

古典を電子書籍で読むには、まだ電子化対象書籍が少ない。角川ソフィア文庫はたいてい電子書籍化されているけれど、岩波文庫講談社学術文庫はほとんど紙のみ。全集も、当然、紙のみ。

 

電子書籍になっていても、本文から注釈へはリンクが貼っていて参照しやすいが、注釈から本文に戻るリンクが無いため、使い勝手があまり良くない。(ただし、Kindle端末なら戻れる)

 

このため、私は初回を電子書籍で読むことは無く、すでに紙の本で読んだことのある本を持ち歩き用や検索用として電子書籍でも持つことが多い。

 

5.感想

我が家の本棚にはいろんな出版社の文庫本や全集本があるけれど、もし今から新しく本棚を作るなら、新編日本古典文学全集(全88巻、1994~2002年)か、新装版新潮日本古典集成(全82冊、2014~2020年)を全巻買いたい。

 

小学館のは最終巻の刊行から22年経過しているので、もう品切れの巻もある。そろそろ新しい全集を刊行してくれないかしらん。そうしたら、すでに持っている本であっても、最新の研究結果が取り込まれているならと思えて、買いなおす決断ができるんだけど。